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- 蘇の十二 加熱の影響(補足)
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2010.10.19 Tuesday乳脂肪とラクトース(乳糖)についてもう少し補足します。蘇製造で一番難しい工程は仕上げの段階である。事を急げは焦げてしまうし、低温すぎても蘇へと近づく事は出来ない。蘇としての粘性と硬さは好みにより加熱温度や濃縮時間を調整すれば良いが、一旦火を止めたら速やかに冷却へと事を進めていかないと、ラクトース(乳糖)の結晶が大型化する。乳糖の甘さはショ糖の六分の一の甘さでしか感じないので蘇として製品となった場合ザラザラと砂を噛んでいるような食感となる。多少のザラ付きは生乳を使用した蘇の特性でもあるのだがあまり大きな結晶は舌触りが悪いものである。また、乳脂肪の 融点は28゜C〜35゜Cであり 固化点は15゜C〜25゜Cである。蘇の仕上げ段階として25゜C以下に温度を下げた場合に再び加熱をし融点まで温度を上げると脂肪だけが溶け出し分離してしまうのでこの事も注意したい。長時間に亘る鍋との会話が最後の最後で反故する羽目になるのはとても辛い事である...。
- 蘇の十一 加熱の影響(乳たんぱく質の変化)
- 蘇の十 加熱の影響(メイラード反応)
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2010.10.02 Saturday
メイラード反応(アミノカルボニル反応の一種)
乳を100゜C以上に加熱すると褐色化(アミノカルボニル反応)する。これはカゼインのアミノ其と乳糖のカルボルニ其との間に反応が起こり褐色物質が生成されたものである。異なる現象であるが、褐色化の一因となるキャラメル化は糖が引き起こす
酸化反応である。
乳糖を100゜C以上長時間加熱すると酸が生成されるのでこれはキャラメル化
と言えるだろう。メイラード反応により独特の香気成分が生ずるが必ずしも万人向けとはいえず、
やはり牛乳臭いと感じる方が多数と思われる。蘇庵の蘇は生乳の自然な風味をなるべく壊したくないので高温での濃縮は
行なわず、メイラード反応のような褐色化や香気成分をあえて生じないように
しています。
- 蘇の九 加熱の影響(加熱臭)
- 蘇の八 加熱の影響(ラムスデン現象)
- 蘇の七 原乳
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2010.09.18 Saturday乳等省令(延喜式のようなものかな ^^ )上での生乳とは、搾取したままの牛の乳をいう。牛乳とは、直接飲用に共する目的で販売する牛の乳をいう。蘇を作るにおいて唯一の材料である原乳なのでもう少し詳しくその違いを説明する事にしよう。牛から搾ったばかりの乳を生乳という。(蘇庵ではこの生乳を原料とし製造する。)この生乳を直ちに保冷却装置へと移し5゜C以下に冷蔵され数時間後
タンクローリー車により何軒かの酪農家を回り収乳(合乳)され、大手乳業メーカーなどに運ばれ牛乳になる為の儀式が行なわれる...
- 蘇の六 蘇庵の蘇
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2010.09.10 Friday蘇を作り始めた当初は何とか十分の一の濃縮に近づくよう工夫を
凝らすが、八分の一程度がやっとであった。市販のローファット乳、
成分調整乳を使ってみたり、わざわざ水を加え成分を薄めてから
濃縮した事さえもあったが、結果は鍋と同化したコゲだかミソだか
分からん様な物であり正直言って美味い物ではなかったのである。果してこんな物を口の奢った朝廷や高官、貴族たちが喜んで食べた
のであろうか...。「生蘇」の存在を認識するまで、長い道のりをたどった。修行と思えば足りない
ぐらいの回り道であったが、すでに何百キロという牛乳を謎の物体へと変えていた。そして「蘇の五」までのような経緯があり「精蘇」から「生蘇」への再現と
移行して行ったのである。朝廷はもちろん売れっ子作家の紫式部、古代セレブたちの舌を魅了させたであろう
「生蘇」の実態とは何か、腕の良い煎り人を雇い入れ作らせた「蘇」とは如何なる物
であったのか。残念ながらその製造法は、詳細には記されてはいない。
が賢明な煎り人であればその姿は見えてくるはずである。
「蘇庵の蘇」とは新鮮な生乳を使い、焦がすことなく姿は乳白色にて、
滑らかで香りよく、甘み、塩みは強すぎず、濃厚なれど繊細で、
淡味にして滋味である。
使う乳の特性を生かし、固すぎず柔らかすぎず
噛みほどける煎り合いが絶妙であれば至極の蘇と呼ぶに値する物なり...。
次回は、唯一の材料である原乳をテーマに書き下ろしたいと思います。
- 蘇の五 「精蘇」と「生蘇」
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2010.09.01 Wednesday牛乳はとても栄養価の高い食品であるが細菌にとっても格好の培地でもある。水分量が多いほど痛みやすい訳であるから出来るだけ濃縮率を上げ水分の少ない蘇に仕上げれば保存が利く。「延喜式」による十分の一の濃縮は、質の安定と保存が目的であり、遠い諸国からの運搬にも都合が良かったのであろう。このほとんどカラカラに乾いた状態の蘇を「精蘇」とよんでいたようである。
直接食べるというよりは、主に薬餌として使用していたのではないだろうか。貢蘇制度が確立した当初は「生蘇」なる物も貢納されていた。平城宮跡から出土した木簡の中に「近江国生蘇三合」という書付がある。恐らく水分量が多めの柔らかいタイプの蘇であったと推察される。運搬途中でカビが発生したり腐敗する事も度々遭ったに違いない次第に近隣諸国からのみの物となり、後に不親切レシピが発動し、
十分の一の濃縮に統一され「精蘇」のみとなるのである。では「生蘇」の製造は中止されてしまったのだろうか。
- 蘇の四 十分の一の謎 (補足)
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2010.08.30 Monday仮に古代牛の全乳固形分が8%だったとしよう、十分の一に濃縮すると蘇の乳固形分は80%となり残り20%が水分となる。バターに含まれる水分は約17%、フ゜ロセスチーズで約45%
であるので硬い固形物であることは想像が付くだろう。ちなみに蘇庵の蘇の水分量は通常約30%である。(もちろん冷蔵温度範囲での話であるし、乳成分も違うので比較するには無理があるが...。)食べかけのチーズをいい加減にラップをして冷蔵庫に保存していたらカビてしまったという経験はないだろうか。チーズとラップの間に水分が溜まり細菌が繁殖した訳である。逆にラップもせずに冷蔵庫に放置し、忘れた頃に出してみたらカチカチに乾いていたなんて事もあったと思う。冷蔵庫でなくても、条件さえ整えば、細菌が繁殖する前にほとんどの水分を無くすことは可能であると考えられる。実際に冬場、蘇庵の蘇(水分量約30%)を小壷に入れ和紙で蓋をし室内に放置しておいたところカビる事もなく一ヶ月でカラカラの状態となった。以外や十分の一の正体はこれかも知れない。遠い諸国から都へ何日もかけて運ばれる途中で八分の一程度に濃縮されいた蘇が宮中に辿り着く頃には十分の一に乾燥していた。壷に入れ貢納したのは濃縮率が一見してそれと判る為であったとすれば、大壷(一升) 一口という正税帳の書付に符合する点がある。なんだかもうこじ付けになってきたので、この謎解きは学者先生にお任せする事にしよう。何故なら私が作りたかった蘇は他にあるからだ。に、逃げたわけではありません。 ^^;
(現代では、スタンダダイザー(三元分離機)などの機械処理で乳成分が思いのままに調整出来るらしい、機会があれば全乳固形分8%の生乳に調整してもらい、マイ鍋で十分の一に濃縮した蘇を作ってみたいと思うのだが、大手乳業メーカーにでも就職しないかぎり無理だろうな...。)